奥村優子『赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか−−ヒトに備わる驚くべき能力』(光文社, 2025) より抜き書き。
1章 赤ちゃんは学びたい
- p.30 共同注意は、語彙学習にも重要な役割を果たします。赤ちゃんが注目している対象の名前を養育者が伝えることで、赤ちゃんはその単語を適切に学習できます。そのため、視線追従や指差しによる対象への注意は、後の語彙発達を予測する要因として知られています。私たちが行った実験でも、生後9ヶ月時点で視線追従が頻繁にみられた赤ちゃんは、18ヶ月時点で語彙数が多いことがわかりました。
- p.32 子どもは、情報源となる他者の信頼性を評価し、信頼できる人からの情報を選んで学ぶことがわかっています。この行動は選択的信頼や選択的学習と呼ばれており、ハーバード大学の発達心理学者ポール・ハリス博士の研究グループを中心に、活発に研究が進められています。
- p.48-9 これらのテスト結果から、視線追従には社会的手がかりと注意手がかりの両方が同程度に効果的である一方、物体学習には社会的手がかりが不可欠であることが明らかになりました。(...)赤ちゃんが効率よく知識を習得するには、アイコンタクトや乳幼児向けの話し方といった社会的手がかりが重要な役割を果たします。このような自然なやりとりこそが、赤ちゃんの学習や発達に大きな影響を与えているのです。
2章 赤ちゃんと道徳
- p.64 つまり、赤ちゃんは自分から進んで行っていたお手伝いを、おもちゃが与えられるとしなくなるのです。これは、赤ちゃんにとってお手伝いは、自分がやりたいからしている行動であり、おもちゃというご褒美がその動機を弱めてしまうと解釈されています。お手伝いをしてくれたときには、ものを与えるのではなく、感謝の言葉を伝える方がよさそうです。
3章 赤ちゃんとことば
- p.101 この結果から、言語学習能力がまだ発達途上にある12ヶ月児では、赤ちゃん言葉だけ、あるいは成人語だけを使う場合には学べるものの、両方の言葉が混ざった場合には学習が難しくなる可能性が示唆されます。赤ちゃんに話しかける際は、赤ちゃん言葉でも成人語でも構いません。ただし、両方を併用するとコンラン氏、学習が進まない可能性があるため、避けた方がよさそうです。子どもが小さいうちは赤ちゃん言葉を使い、発話が上達したタイミングで成人語に切り替えて話しかける方法も有効かも知れません。
- p.112 子どもの言語能力やIQに影響を与えるのは、家庭の経済状況そのものではなく、養育者がどれだけ多く、質の高い言葉をかけたかにあるといえます。養育者が豊かな表現や肯定的な言葉を多用し、積極的に語りかけることが、子どもの言語能力の発達につながっているのです。
- p.113 養育者からの言語インプットにおいて、疑問文を頻繁に使う養育者の子どもは、より多くの語彙を習得していることが報告されています。子どもの言語習得には、養育者からの語りかけが重要であることは前述の通りですが、会話のやり取りも同様に重要です。疑問文は相手からの反応を求めるため、子どもの発話を促します。
4章 赤ちゃんとメディア
- p.131 子どものメディア視聴が否定的に捉えられる背景には、どのような根拠があるのでしょうか。
まず、健康面では、幼児期にメディアを多く使用することがBMIの上昇と関連し、肥満リスクが懸念されています。たとえば、食事中にテレビを視聴することで、満腹感を適切に感じとる能力が低下することが報告されています。たとえば、食事中にテレビを視聴することで、満腹感を適切に感じとる能力が低下することが報告されています。
また、睡眠への影響も指摘されています。寝室にメディアがある子どもは、睡眠時間が短くなる傾向があります。夕方にメディアを視聴する赤ちゃんは、視聴しない赤ちゃんより夜間の睡眠時間が短いことが明らかになっています。これには、スクリーンからのブルーライトがメラトニン生成を抑制し、睡眠の質を低下させることや、映像や音の刺激が覚醒を促す影響が関与していると考えられます。 - p.134-5 バックグラウンドテレビが子どもの行動や親子の関わりに与える影響について、さまざまな研究が行われてきました。ある研究では、1〜3歳の子どもがおもちゃで遊んでいる間に、バックグラウンドテレビがどのような影響を及ぼすかが調べられました。結果は、テレビがつけっぱなしの部屋では、子どもがテレビをほとんど見ていなくても、おもちゃ遊びの自発性や集中力が著しく低下することが示されました。(...) 親子のコミュニケーションにも影響を及ぼすことがわかっています。テレビがついていると、親の関心がテレビに向かいやすくなり、その結果、親子の関わりが大幅に減少する傾向があります。(...)さらに、バックグラウンドテレビにさらされている子どもは、他者の思いや感情、望みを読みとる力が弱いようです。これらの研究結果から、幼い頃から慢性的にテレビに触れ続けることが、発達に望ましくない影響を及ぼす可能性があります。
メディア利用と子どもの発達に関する研究を踏まえ、親や社会はメディアの長時間利用に対して認識し、対処していく必要があります。しかし、これらの研究結果は、赤ちゃんにメディアを全く見せない方がよいという結論には至りません。 - p.136-7 2歳までの子どもは、認知能力、言語能力、運動能力、社会性の発達において、直接的な体験や関わりが必要です。この時期の赤ちゃんは、目の前にない物事を頭の中でイメージしたり、記憶したり、集中して物事を見る力がまだ十分ではありません。そのため、テレビやタブレット端末などの画面上の映像から学習することは難しいと考えられています。メディアを通じて学ぶためには、映像で見た内容を自分がいる現実世界と結びつける力が必要ですが、2歳までの赤ちゃんにはその理解が難しいのです。
- p.170 幼児向け教育番組は、単なる娯楽にとどまらず、教育的な機能も果たしています。テレビを通じて日常生活や子どもの興味に関連する内容を提供することで、赤ちゃんの知的好奇心を引き出し、感性や認知の発達をゆるやかに後押しします。
こうした番組は、赤ちゃんにとって学びの場を提供し、成長の過程を支える重要な役割を担っているといえます。適切なプログラムを適切に使えば、赤ちゃんはメディアから学ぶことができるのです。
5章 赤ちゃんと絵本
- p.176-7 アメリカで行われた長期間にわたる調査では、1〜2歳のときに養育者がどれくらい頻繁に絵本を読み聞かせていたかが、8〜9歳の時点での語彙力や文章を理解する力、読書への意欲に影響を与えることが報告されています。つまり、1歳のときからたくさん読み聞かせをしてもらった子どもは、本を楽しむだけでなく、言葉の力が育まれ、認知能力の発達にもつながりやすいのです。
- p.182 子どもは「嘘をついてはダメ」と言われるよりも、「正直に話そうね」と伝えられる方が、素直に受け入れやすいのかもしれません。不正直さに対する不利益を強調するより、正直でいることの良さを伝えた方が、子どもの印象に残りやすく、正直であろうとする気持ちを育てやすいと考えられます。
- p.183 多くの絵本では、イヌやウサギなどの擬人化した動物のキャラクターが登場し、子どもの興味を引きつけます。4歳から6歳の子どもを対象にした実験では、人間のキャラクターが登場する道徳的な絵本を読んだ子どもは、その後に道徳的な行動をとる傾向が見られました。一方で、擬人化した動物のキャラクターが登場する絵本では、そうした効果は見られませんでした。子どもに道徳的な教訓を伝えるには、動物ではなく人間のキャラクターが描かれた物語の方が効果的なのかもしれません。
ただし、擬人化された動物が登場するファンタジー絵本が道徳を伝えられないわけではありません。現実世界に関する知識や倫理的、社会的な行動に関しては、人間のキャラクターを通じて学ぶ方が、子どもには理解しやすい、ということでしょう。 - p.186 親が多くの絵本を知っていると、適切な絵本を見つけるのが容易になり、読み聞かせの頻度が増えます。また、さまざまな絵本を読むことで、多様な語彙に増える機会も増えるため、子どもの言語発達にとって大きな利点となります。
- p.196 その結果、赤ちゃんも、絵画調の絵柄よりも萌え絵やアニメ調の絵を好む傾向があることがわかりました。言葉を話す前の赤ちゃんも、キラキラした大きな目の絵柄や、鮮やかな色使いに引きつけられていた可能性があります。
これらの結果から、親と子どもの間で絵本の絵柄に対する好みにズレがあることがわかります。大人は、絵本の持つ独自の世界観を重視しており、萌え絵を避ける傾向があるのかもしれません。 - p.197 アニメ調の絵は、具体的なイメージを詳細に描き出すため、新しい想像を生み出すことが難しくなる可能性があります。一方、素朴で神秘的な絵は、子どもの心を日常から解放し、新たな想像を引き出す助けとなることが示唆されています。
6章 赤ちゃんとロボット
- p.215 この結果から、赤ちゃんはロボットを、見た目だけでは話し相手とは思わないようですが、ロボットがコミュニケーション可能な存在だと示されると、話し相手として適切だと判断することがわかります。事前にロボットと人間のやり取りの様子を見せることが、赤ちゃんのロボットに対する捉え方に影響を与えるのです。